サワークリームは万能調味料
日本の生活の中でサワークリームが利用される場面は非常に少なく、「ポテトチップスのサワークリーム味」などで、なんとなく味を想像している人が多いと思います。サワークリームはロシア・東欧・東ヨーロッパの生活に欠かせない「クリーム」であり、クリームなのに酸っぱい不思議な乳製品です。
サワークリームの正体は、いったい何なのでしょうか?
サワークリームって何?
サワークリームって何?
サワークリームとは文字通り「酸っぱいクリーム」ですが、そこまで酸味の強い食品ではありません。「クリームを発酵させた乳製品」であり、ある程度保存が効き、発酵と共に酸味が強くなります。
生クリームや牛乳を利用して作られ、東ヨーロッパやウクライナでは様々な料理に加えられます。マヨネーズに近い用途で利用され、「調味料」の一つとして活躍します。
ロシア・東欧・東ヨーロッパでは作り方の違いや脂肪分で名称が異なり、サワークリーム以外に様々な名称で呼ばれます。
クリームって何?
乳を「遠心分離機」で遠心力により乳から「脂質(乳脂肪)」を分離させた物が「クリーム」です。分離機は古代ローマ時代から利用され、クリームは歴史がある食べ物です。
サワークリームの定義
「日本」のクリームは「乳脂肪分が18%以上、酸度が0.2%以下」と食品衛生法で決められています。
参照:厚生労働省
「米国」のサワークリームは「加工前のクリームの乳脂肪が18%、加工後が14.4%以上、総酸度が0.5%以上」でなければなりません。この基準を満たしていれば更にデンプン(1%以下)、乳、ホエー(乳清:ヨーグルトの上にできる上澄み液のようなもの)、塩などを加える事が可能であり、メーカーにより味が大きく異なります。
参照:FDA
作り方が厳密に決められている国は少なく、厳密な定義がない国がほとんどです。
容器が膨らむ
サワークリームやスメタナ(サワークリームの一種)は「発酵食品」であり、海外では容器が膨らんでいたり、容器に気泡が抜けられる穴が空いている場合があります。日本では食品衛生法で容器に穴を空ける事ができないため、流通が難しい乳製品です。
世界の牛乳の消費量についての記事です。よろしかったら一緒にご覧ください。
サワークリームの歴史
サワークリームの誕生
サワークリームが誕生したのは16世紀であり、ロシア人によって作られました。起源はカザフスタンに住んでいた「ボタイ族:紀元前3700年ー紀元前3100年頃にカザフスタン北部に住んでおり、初めて馬を家畜させた民族」が馬の乳を発酵させて作る馬乳酒「クミス」から派生します。
馬の家畜化はユーラシア全土に広まり、モンゴルでもクミス(モンゴルではайраг(アイラグ)と呼ばれる)が一般的に消費されるようになります。
クミスは馬乳を乳酸菌と酵母で発酵させ作らる「低アルコール飲料」です。非常に強い酸味があり、カザフスタン・キルギス・ロシアでは現在も消費します。クミスは殺菌をおこなわないために発酵が進み、酸味は時間共に更に強くなります。
1200年代から1300年代にモンゴル帝国の支配が進み、乳製品を利用した発酵食品や飲料がユーラシア大陸全土に普及、ロシアでは「牛乳」を利用してクミスを作るようになります。
発酵の調整をおこなった物がサワークリームの原型であり、クミスはスメタナに変化し、一般的に消費される乳製品です。
日本でサワークリームが広まったのは戦後であり、「ロシア大使館」を通して作り方が伝授されたとしています。
スメタナの語源
ロシア語で「掃き集める・除去する」を意味する「Съметати:スィメターチ」が語源です。スラブ語圏では「隠語」「スラング」として良くない意味で使われる事もあります。
ウクライナ・ブルガリア・スロベニア・チェコ・ポーランドでもスメタナ、またはそれに近い呼び方をします。
サワークリームの姓を持つ人
ロシア圏では「Сметанин:スメタミン」という姓を持つ人がいます。文字通り「サワークリームを生産していた人たち」の姓であり、村などでは「食べ物に関した姓」を持つ人が存在します。
90年代のスーパーフード
栄養不足を補う食品として90年代のロシアは非常に貧しい生活を強いられ食べ物が不足しました。サワークリームやマヨネーズは子供の栄養を補うための「スーパーフード」であり、様々な食品に加えられました。非常にシンプルな野菜やスープもサワークリームを加えると味や見栄えが良くなり、食卓が豊かになりました。
サワークリーム利用する国
サワークリームがとくに利用される国
サワークリームの消費が多い国はアメリカ・フランス・ポーランド・ロシア・ドイツなどで、年間に250万トン以上消費されると言われています。
サワークリームは万能調味料
サワークリームが国民食となる国はロシア・北欧・東欧・東ヨーロッパです。これらの国々は非常に多くの料理にサワークリームが使用され、スープに必ずと言って良いほどサワークリームを加えます。「パンケーキ」「水餃子」「サラダ(マヨネーズのように利用)」「ジャガイモ」に合わせる「万能調味料」のような使い方がされ、欠かせない食品の一つです。
メキシコ料理とサワークリーム
メキシコ料理の「ソパ・デ・トルティーヤ:トルティーヤのスープの意で、残り物のトルティーヤの具を混ぜたスープ」「トスターダ・デ・ティンガ:ほぐした鶏肉のトースト」「チラキレス:油で揚げたトルティーヤを煮込んだもの」などの料理にサワークリーム、またはクリーム・フレーシュ(メキシコではクレマと呼ぶ)を加えます。
メキシコのサワークリームは酸味が弱い物が多く、200年以上前にフランス人が持ち込んだとされます。
中部のハリスコ州はサワークリームを多様します
アメリカで利用されるサワークリーム
アメリアでは「チャイブ(西洋のネギのような植物)」を添えた暖かいスープなどに加えられ、ヨーロッパと同じように利用されています。国内ではメキシコ料理の人気が高く、頻繁に消費されます。
スメタナとサワークリームの違い
東ヨーロッパのスメタナ
東ヨーロッパではサワークリームの事を「スメタナ」と呼びます。私は東欧に長く住んでいますが違いがはっきりわかりません。ロシア人に聞くと、サワークリームとスメタナは、厳密には全く違う食べ物で、作り方にも若干の違いがあります。
サワークリームとスメタナの違い
サワークリーム | スメタナ | |
乳脂肪分 | 15 - 18% | 10 - 30% |
仕事先 | 西ヨーロッパ・米国 | 東ヨーロッパ・ロシア |
食感 | 軽め | 濃厚 |
酸味 | 弱め | 強め |
用途 | デップ多め | スープ多め |
日本のサワークリーム
日本で販売されるサワークリームは脂肪分が40%を超える物が多く、クリームとしてはかなり固めです。
存在する菌
サワークリームには「ラクトコッカス・ロイコノストックなど(球菌:球状の菌)」が含まれる傾向があります。カスピ海ヨーグルトなどに含まれる「クレモリス菌」は「Lactococcus lactis(ラクトコッカス)」であり、ふわふわな食感が特徴です。
ブルガリアヨーグルトには「ラクトバチルス(桿菌:細長い棒状の菌)」が含まれ、さらっとした食感が特徴です。
東ヨーロッパではクリーム扱い
日本でパンの中に入れるクリームは「ホイップクリーム」が多いと思いますが、東欧や東ヨーロッパでは「Творог:トゥヴァローク」という「カッテージチーズ」が入れられます。ベーカリーで見かけるクリーム入りのパンはほぼ全てトゥヴァロークであり、人気があります。
東ヨーロッパ
辛い物が嫌い
辛い物が好まれない
ロシア・東欧・東ヨーロッパの国々は多くの人が辛い食べ物を好みません。「胡椒」も「辛い」と避ける人が多く、サワークリームを主な調味料として利用します。歴史的に「トウガラシ」など辛い調味料が利用されなかったため、避けられる傾向があります。
「タマネギ」「白ワサビ」などは食べ慣れているため良く消費します。
味をごまかすために入れる
東ヨーロッパは過去に安い食材の味をごまかすために「スメタナ」「マヨネーズ」が多様されました。スメタナ・マヨネーズは「味の平均化」「味をごまかす」が低価格で可能な調味料であり、80年代から90年代に多く利用されました。
そんなに貧乏だったの?
海外から物が入りにくかったため、市場では「再利用されたビンの蓋」「再利用されたビン」が一利用されていました。部品や材料が入ってこないのは日常的であり、貧乏というよりは「物が不足していた」という表現が正しいと思います。
ボルシチはサワークリームを入れる
ボルシチには必ずサワークリーム!
ウクライナを代表的する料理は「ボルシチ」です。ボルシチはスメタナを加えないと「新のボルシチ」とは呼べません。必ず入れます。ボルシチはロシア・ウクライナ・ポーランド・バルト三国の国民食ですが、必ずスメタナが加えられます。
私はボルシチにスメタナを入れない派ですが、入れないと必ず理由を問われます。入れなくても美味しいですよ!
スメタナを加えた状態が普通
「スメタナを加えたボルシチが当たり前」であり、スメタナが加えられていないボルシチは不思議に感じるようです。
味噌が加えられていない味噌汁みたいな感覚なのでしょうか?
簡単なサワークリームのレシピ
米国式サワークリームの作り方
用意するもの
・生クリーム
・レモン
・牛乳
作り方
1.適当な空き瓶に生クリームを入れます。量は空き瓶に対して三分の一以下が良いです。
2.レモンを切り、レモン汁を加えます。
3. 牛乳を少し加えます。全部を混ぜ合わせて三分の一ぐらいの量が良いです。
4.空き瓶のフタを閉め、良く振ります。
5.フタを開け、ゴミが入らないようにキッチンペーパーなどでフタをします。
6.24時間温度の低いところで発酵させます。
7.分離したものをもう一度よく混ぜたら出来上がり!
出来上がった物にお好みの調味料を加えても美味しくなります。レモンからヨーグルトに変えても作る事ができます。
1週間ぐらい冷蔵庫で保存が可能です。
まとめ
サワークリームは重要な調味料
サワークリームは東ヨーロッパの国民食として欠かせない食品です。脂肪分が高い為、ダイエットには向かない食品ですが、非常に簡単に作る事が可能であり、冷蔵庫で保存が可能です。
日本での人気はイマイチ
日本ではサワークリームを利用する機会がほぼ無いため、利用は限定的です。
今回の記事は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考
fumib.net. "サワークリームという謎の食べ物。いったい正体は何?" 2021年04月19日作成。 ©fumib.net. 2024年11月25日最終更新。
サムネイル:Pixabay
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